学生読書日誌

ハッピーヘブンのふきだまり

主に読書感想文をかきます

朝井リョウの『世にも奇妙な君物語』を読んだ

インスタントな暇つぶしに抗いたい。

流石に2か月も経つとリモートワークとの付き合い方もわかってきて、鬱らない程度に進捗を生みつつ、プライベートをどう過ごそうか、みたいなことを自然に考えるようになった。

というか、能動的にそれを考えないと、一週間の周期性に押しつぶされそうだ。

旅行やライブなどのたまにある非日常がもたらす「待ち遠しい」という感覚が、いかにメンタルヘルスに貢献していたのかを実感させられた。

行動が制限されたまま日常業務が続いていくと、生活全部が惰性で回りだして、受動的な情報源をザッピングする以外の時間の過ごし方が思い出せなくなっていくらしい。

というわけで、インスタントな暇つぶしに抗いたい。

嫌いじゃないけどそこそこ気力が必要で、習慣化しなくても罪悪感が湧かず、コスパはよくないけどやり終えた際には適度に悦に浸れるモノ。

そうだ、本読んでブログにあげよう。

というわけで、今回は朝井リョウの『世にも奇妙な君物語』の感想記事を書こうと思う。Kindleの履歴を見たら2か月前に買って積んでいた。

本作は、「人物像、世界観、果てはその物語を描いたこと自体にも理由を求められることに疲れた」と語る著者が、「世にも奇妙なという枕詞の、不条理を一発で受け入れさせる説得力に魅力を感じて書いた」(要約)という5編の短編集である。

 

世にも奇妙な君物語 (講談社文庫)

 

あらすじ

『シェアハウさない』
ライターとして名をあげ、ゆくゆくは自分の本を出版したいと考えている女性記者、浩子。
彼女は雑誌で任された特集のためにあるシェアハウスへ入居しようとするが、住人達にわざわざ共同生活を営む理由は見当たらず……?

リア充裁判』
「コミュニケーション能力促進法」が施行された近未来では、いかに「日本人らしい豊かなコミュニケーション能力」を培ってきたかを問われる「能力調査会」、通称「リア充裁判」へ、18歳以上の未就労の若者が無作為に召集される。
女子大生知子は、知的で実直だった姉を歪ませたこの制度に複雑な思いを抱えていた。そんな彼女のもとにも、ついに忌まわしきリア充裁判の召集状が届く。

『立て!金次郎』

 人当たりがよく、生徒一人ひとりに向き合うことを信条とする幼稚園教諭、金山考次郎は、PTAの圧力に屈した学年主任による「どの児童も均等に行事で目立たせる教育」に辟易していた。挙句主任は、「ある男子は今年目立っていないから、次の運動会では大役を任せるように」と圧力をかけてくる始末。
建前だけのスポットライトで子どもたちを照らすことが彼らのためになるのか? どんな場面でも、子ども自ら考えて行動するのを促すのが教育ではないのか? 彼はかつての恩師の教えを胸に、来る運動会の準備に取り掛かる。

『13.5文字しか集中して読めな』
タイトルは全角13文字プラス半角1文字の13.5文字。要約文は40文字かける3行。これが、ワールド・サーフィン社のメディア、サーフィンNEWSの金科玉条。ワールド・サーフィン社が考案したフォーマットは、短文慣れした現代人のニーズとマッチし、あっというまにネットニュースのスタンダードとなった。
サーフィンNEWSのライター香織は、自分の記事が世の中のアクセスを集めていることに充実感を覚えていたが、私生活では裏腹、夫に浮気の兆候が……。

『脇役バトルロワイアル
世界的に著名な演出家の新作舞台の主演オーディション。近年めっきり役者としての仕事が減ってしまった淳平にとって、是が非でもつかみたい大きなチャンス。意気込んで会場入りするも、主演オーディションのはずなのに候補者は年齢、キャリア、性別ともに全くのバラバラ。唯一の共通点は「脇役俳優」であること……。
演出家不在のまま開始時刻を迎えると、候補者の面々は演出家の席に置かれていたカメラが点灯したことに気づく。
「これ、もしかして、もう始まってるってことですか?」
「噂によるとこの演出家は、脇役としてのキャリアを積みつつも、役に入っていないときには主役としての華を持つ、そんな役者を探しているらしい」
不可解なオーディションは、いかに脇役っぽい振る舞いを避けるかを競う、バトルロワイアルと化した!

感想

シンプルに読んでいて面白くて、にやにや笑いながら2時間くらいで楽しく読み切れた。

同時に、見せ方が不条理ギャグっぽくなっても着眼点やテーマはブレず、長編と同等以上に客観性や現代風刺が濃縮されていて、笑いながら戒められるというよくできた寓話みたいな気持ちになった。

須賀しのぶの『革命前夜』の解説文で本人が語っている通り、著者は何を書くにしても本人が普通に生活してきた中での経験や気づきをもとにして物語を作っているのだろうし、その、一貫して身を削って書かれているがゆえの切実さが朝井リョウの小説の魅力だなと再認識した。

個人的に好きだったのは『リア充裁判』と『脇役バトルロワイアル』。

前者は、相変わらずこちらのメタ認知に殴りかかってくるような持ち味があり、ショートショートとしてのおさまりもよく、裁判描写がアホらしくて笑える。

後者はひたすらギャグ調ながら、「客観性を求められずにすむだけの何かを持っているのが主役」など、ああなるほどと思わされてしまう一節がちょくちょく挟まってくるのが謎にエモくて好きだった。個人的に、面白ポイントが似てるなと思い出したのが『銀魂』の一話完結回。

 

読んでいた時間よりも、あらすじの要約と感想の言語化に使った時間の方が体感的に長かった。

時間に対するアウトプット効率で言うとヒドいけれど、そういう時間の使い方の方が「なにかした感」は得られる気がする。合理化かな?