岸本佐知子『なんらかの事情』を読みました
駅前のカフェで本を2冊読む、文化的な休日を過ごしたので感想書いていきたいと思います。
今回読んだのは岸本佐知子の『なんらかの事情』。妄想とエッセイが半々になったような短編集です。
著者の岸本さんについては全く知らなかったのですが、本業は翻訳家らしいです。あいにく訳書に読んだことのあるものは無かったのですが、『中二階』だけは名前を聞いたことがありましたので今度読んでみようと思います。
さて、本の内容としては、著者独特の視点から日常に存在するいろいろなものに疑問や面白みを見出し、軽快な文体でばかばかしく描写していく、というエッセイとしてはわりとありがちなものです。
この本のなにがすごいかと言えば、個人的には文章力に裏付けされた茶化し方と、体験談から妄想へ移行する際の怖くなるほどのスムーズさだと思います。
個人的に好きな一編として、
「アロマセラピーにハマり真面目に用具にもこだわるようになったが、ほんのふとした瞬間に「アロマでごわす」というフレーズが思いついてしまい、その瞬間何もかもばかばかしくなりアロマから輝きが失われてしまった」
「この後もマイブームにたいして「ざます」「でげす」等々のバリエーションが現れるようになり、今は、自分の人生に対して「ごわす」がつかないように危惧するばかり」
というお話があります。
ともすれば、作家という"高尚な立場"の人間が流行りものを馬鹿にしているように映ってしまうテーマですが、生真面目で素朴な文体とワードセンスの可愛らしさが、そのようなスカした雰囲気を微塵も感じさせません。むしろ純粋に自分の生活と感情を抽出したエピソードなのだろうと好感が持てます。
後者のところについては、アナウンサーの実況とともに黒い翼を生やして空へ飛び立つ力士や、海中を進みながら得意げに案内するカーナビなど、珍妙な話が満載です。
唐突に眠気が来ました。ここについてはぜひご自身でご一読下さい。
ともあれ、真面目に不真面目な雰囲気で日常のものごとに向き合ったゆるく楽しい作品です。
こたつに転がりながらゆるりと読みましょう。辛い時にオススメです。
それではおやすみなさいませ。