最強のリテラシー教本『知的複眼思考法』
「自分で考えろ」というのはやさしい。「自分で考える力を身につけよう」というだけなら、誰にでもいえる。
そういって考える力がつくと思っている人々は、どれだけ考える力を持っているのか。(本文より)
はい。
引用部分はまえがきからとったのですが、挑戦的でいいですね。
というわけで今回は『知的複眼思考法』の紹介をしたいと思います。
最近読んだ下のブログ記事で紹介されており、そこでの推され方がすごかったので手に取ってみました。
では、紹介に入っていきましょう。
あらすじ
まえがきで筆者が狙いを提示しているのですが、ここでの「知的複眼思考法」とは、ステレオタイプに短絡的に左右されるのではなく、自分の頭で物事を考えることだといいます。
そして、本書はそれを支える基礎的なトレーニング法を筆者が紹介したものです。
以下のように4章立ての構造で、実践を挟みつつ順を追って書かれています。
- 創造的読書で思考力を鍛える
- 考えるための作文技法
- 問いのたて方と展開のしかた
- 複眼思考を身につける
この記事では、各章ごとに有用そうなトピックを少し抜粋して書いていこうと思います。
1章:批判的読書のコツについて
1章で書かれているのは、複眼思考を体得する(情報を多面的な視点で解釈できるようになる)ための読書技法です。
ここで主に語られているのは、著者と対等な視点で本を読むこと。
なぜなら活字はそもそも、著者が表現したい内容を書くにあたって取捨選択を繰り返した結果の産物であり、無謬の完成品ではないからです。
だからこそ過剰にありがたがったりする必要はなく、読みながら内容について考えていくことが、思考力の養成には肝要だといいます。
具体的なコツとしては以下の4つ。
- 鵜呑みにしない(内容をまるごと信じたりしない)
- 著者の目的を考える(誰に向けて書かれた、どんな種類の本なのか?)
- 論理展開の正しさを考える(著者の主観的意見とデータ、根拠を区別する)
- 著者が依拠している前提を探る(言葉遣いや設問から、著者の中の”常識”を推測する)
2章:論理的文章を書く方法
2章では、1章の視点を自分自身に向けて、論理的で説得力のある文章を書く方法について触れられています。
なぜ作文技法が問題にされるかというと、著者曰く「書く事は、自分の考えを明晰に表現することにほかならない」から。
その前提として、どんな優れた考えも、伝わるように表現できなければ無いものと同じだ、という主張も述べられています。
ここでは、実際に気をつけるべき点として、主に以下のことが挙げられます。
・結論→理由付けの構成
・論点が変わるときは読者に伝える
・筆者の判断の根拠がなんなのかを示す
・接続語の使い方に気を配る
基本的ですが、これらを徹底することで読みやすく説得的な文章になるわけですね。
また、書き方のトレーニング技法としては「ある主張に対して複数の立場からの反論を書いてみること」が、多面的視点を体感できる点で有用だといいます。
3章:何を問題として取り上げるべきか?
ここの内容は結構アカデミック、ビジネス成分が強いです。
というのも、何かについて考える際に、一体どんな設問から始めて考察していけばいいか?という点に関するコツを書いた章になっているからです。
ここでは、生活の中での「素朴な疑問」を、「解答を与えることを目的とした問い」の形に昇華することが最初の一歩だとされます。
そして問いの形としては、調べてわかってしまうような「~はどうなっているのか?」ではなく、「なぜ~なのか?」と因果関係を追求する設問がベター。理由を問題にすることで、自分で仮説を設定する、つまり考える必要が生じるからです。
こうして「なぜ」を追求することで、”収まりの良い”ステレオタイプで思考停止せず、自分で問題について考えてみる習慣がつくのがメリットです。
4章:複眼思考、3つの具体例
ここでは、著者が複眼思考とする3つの物事への考え方が具体的に紹介されています。
- 関係論的な考え方
- 逆説的な考え方
- メタ的な考え方
1について、関係論的思考とはある物事を、2つ以上の要素が相互に関連しているものだと考えることです。まさに著者のいう複眼ですね。
本文中では過労死の概念を取り上げてこれを説明しています。過労死は従来、労働者側の健康管理の問題と一義的に捉えられていましたが、それに加え職場環境や労働内容・時間が要因として存在するのは、今や自明のことです。
物事の性質を、安易に単一の要素に帰着させずに、ただしく要因を分解・把握することがここでの目的です。
2について、逆説的思考とは、物事の意図せざる結果、「~にもかかわらず」という構造に着目することです。(具体的説明は難しいので、ここは本書を読んでください笑)
これによって、事象の影響関係を常識に縛られず幅広く捉えることが可能になります。
3について、メタ的思考法とは、「問いを立てること」そのものについて問い直すことです。
具体的には、「そもそもこれはなぜ問題なのか?」「この問題で誰に利害が生じるか?」「解決された場合どのような結果が生じるか?」といった、設問そのものに対して一歩引いた目線で考えることです。
このスタンスを取ることで、問いの前提に目を向けることができ、より冷静な判断が可能になります。
おわりに
非常にわかりやすい文体で、リテラシーの鍛え方について体系的に書かれた名著でした。
この内容を完全にマスターできれば、情報を解釈する力は飛躍的に高まると思います。
近年は、SNSやらなんやらの盛り上がりから、個々人の情報リテラシーがものすごく大事な能力になってきています。
キャッチーでバズった投稿をよく調べてみるとニュースをぐちゃぐちゃに改ざんしたフェイクだったり、個人の主観的意見が何万人ものフォロワーの反響を得てひとり歩きしていたり……。
SNSで世間話程度のデマをツモるならまだいいですが、いまや、受験・就活・結婚など重要な意思決定に際しても、玉石混交の数多くの情報が紛れ込んでいます。
本書はそういった潮流の中、上手く立ち回っていくための強い武器となってくれるのではないでしょうか?
知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社+α文庫)
- 作者: 苅谷剛彦
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/05/20
- メディア: 文庫
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