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臆病で尊大な読書日誌

大学生の読書感想文

芥川賞受賞作『コンビニ人間』を読みました

駅前の丸善で買った本が中々面白かったので、久々の感想文スタイルでいこうと思います。

今回読んだのは第155回芥川賞受賞作、村田沙耶香著、『コンビニ人間』です。

あらすじとしては、コンビニアルバイトだけが生きがいの36歳未婚女性の社会との関わり方の話です。全く余談ですが映画と違って一文であらすじが終わって感動しています。

さて、なんとかかんとか自分が納得できるような就職先を探して、目下のシューカツに取り組んでいるような私にとっては、主人公のプロフィールは正直眉をひそめてしまうモノ。

しかし主人公からしてみれば、街や社会の光景の一部であるコンビニで、常にコンビニのために合理的な店員として生活することは、自らが「普通」の存在として社会との接点を保つために必要なことなのです。

幼少の頃から所謂サイコパス的で、全く社会に馴染めなかった主人公にとって、自分のような人間でも、制服を身にまとい、挨拶をトレースし、問題なく仕事をこなすだけで「店員」という存在として承認されるコンビニという環境はまさに天職でした。

こういう類の話だと、周囲の同質化の圧力に負けてどうにかして迎合を果たそうとして、それが上手くいくか無惨に失敗して破滅するかのどちらの筋で進むのかと考えてしまいますが、この小説では違いました。

物語終盤、様々な利害関係を考慮してロクデナシの男と同居を始めた主人公。同居人の男の話に納得し、正規の就職をするためにコンビニバイトを辞めてしまいます。

なかば抜け殻状態の主人公でしたが、転職先候補の面接に向かう際に立ち寄ったコンビニで、"コンビニの声"を聞くのです。あそこの陳列がめちゃくちゃで、自動ドアには指紋がついていて、セール品のPOPは全然印象に残らない!

店を出た主人公は、思わず「いらっしゃいませ!」と口にした自分がガラスに映っているのを見て、自分はやはり"店員"としてしかこの世界で意味を果たすことはできないのだと、自らの性質を受け入れるのでした。

このクライマックス、非常に狂気的でいながらもどこかポジティブな印象を感じさせます。

さて、自分はこの結末を読んで、まず真っ先に、この気違い染みた小説を書ける作者の方に興味が湧きました笑

そして、次に思ったのが、これだけ冷静&客観的&俯瞰的な思考回路(むしろ客観的にしか考えられないせいで、異常者になってしまっている)の主人公でも、世界の構成要素として、意味のあるものとして機能する安堵感、つまり承認欲求から逃れられなかったのだなという寂しさでした。

これだけ見事に主人公の異常性を表現していながらも、その動機付けの大元は"人間"として認められたいという気持ちなんですよね。ヤバい人間の出てくる物語はたくさんありますが、この感情から解き放たれているキャラクターはほぼ全く見たことがない気がします。

これに関しては著者の思考の幅の限界というか、人間の限界なのでしょうね。

自分を認識するための理性と感情を持ってしまった人間にとって、根源的に"意味のない存在である"という状態は耐えられない。そんなテーマを言外に感じる小説でした。

めちゃくちゃ淡々としてて読みやすく、オススメです。