2019年に読んだ100冊を振り返り、オススメ15冊を挙げる
はじめに
相変わらず、思い出したかのようなブログ更新になりました。
今年は個人的に「年間100冊の本を読んで感想を書く」という目標を設定していまして、メモ帳やTwitterに書き連ねていた分、ブログにアウトプットする手間暇を割きにくかったのですが、結果、なんとか目標を達成することが出来ました。
今回は、そうやって積み上げてきたログの総括をやってみようかなという次第です。
構成はテキトーですが、今年中に読んだ本を全てリストアップした後、2019年の読書について振り返ろうと思います。
ちなみに、シリーズ・上下巻は各々1冊カウントしています(リストをチラ見していただければ理由は分かるかと)。
2019年に読んだ本(読んだ順)
- 『プログラムはなぜ動くのか』矢沢久雄
- 『みかづき』森絵都
- 『東京輪舞』月村了衛
- 『その日、朱音は空を飛んだ』武田綾乃
- 『砂の女』安部公房
- 『グロテスク 上』桐野夏生
- 『グロテスク 下』
- 『天才は諦めた』山里亮太
- 『エンジニアの知的生産術』西尾泰和
- 『立華高校マーチングバンド部へようこそ』武田綾乃
- 『BanG Dream!』中村航
- 『邪魔 上』奥田英朗
- 『邪魔 下』
- 『ナナメの夕暮れ』若林正恭
- 『死にがいを求めて生きているの』朝井リョウ
- 『ニワトリは一度だけ飛べる』重松清
- 『DEATH 死とはなにか』シェリー・ケーガン
- 『顔に降りかかる雨』桐野夏生
- 『天冥の標1 上』小川一水
- 『天冥の標1 下』
- 『天冥の標2』
- 『天冥の標3』
- 『天冥の標4』
- 『天冥の標5』
- 『天冥の標6 上』
- 『天冥の標6 中』
- 『天冥の標6 下』
- 『天冥の標7』
- 『天冥の標8 上』
- 『天冥の標8 下』
- 『天冥の標9 上』
- 『天冥の標9 下』
- 『天冥の標10 上』
- 『天冥の標10 中』
- 『天冥の標10 下』
- 『矛盾社会序説』御田寺圭
- 『アリスマ王の愛した魔物』小川一水
- 『ストレングス・ファインダー』ドナルド・O・クリフトン
- 『ディープワーク:大事なことに集中する』カール・ニューポート
- 『何者でもない』般若
- 『ホモ・デウス 上』ユヴァル・ノア・ハラリ
- 『ホモ・デウス 下』
- 『正義の教室』飲茶
- 『難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えて下さい』山崎元
- 『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』藤田祥平
- 『ある男』平野啓一郎
- 『三体』劉慈欣
- 『ままならないから私とあなた』朝井リョウ
- 『快感回路』デイヴィット・J・リンデン
- 『うそつき、うそつき』清水杜氏彦
- 『バッタを倒しにアフリカへ』前野ウルド浩太郎
- 『紙の動物園』ケン・リュウ
- 『ヒッキーヒッキーシェイク』津原泰水
- 『シーソーモンスター』伊坂幸太郎
- 『クジラ頭の王様』伊坂幸太郎
- 『麦の海に沈む果実』恩田陸
- 『なめらかな世界と、その敵』伴名練
- 『少女七竈と七人の可愛そうな大人』桜庭一樹
- 『堕落論』坂口安吾
- 『老ヴォールの惑星』小川一水
- 『王とサーカス』米澤穂信
- 『夢をかなえるゾウ2』水野敬也
- 『夢をかなえるゾウ3』
- 『光の犬』松家仁之
- 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとだけブルー』ブレイディみかこ
- 『真実の10メートル手前』米澤穂信
- 『面白いとは何か』森博嗣
- 『生まれ変わり』ケン・リュウ
- 『最初にして最後のアイドル』草野原々
- 『寝ながら学べる構造主義』内田樹
- 『青い星まで飛んでいけ』小川一水
- 『自分の中に毒を持て』岡本太郎
- 『世界で最も強力な9のアルゴリズム』ジョン・マコーミック
- 『さよなら妖精』米澤穂信
- 『14歳からの哲学入門』飲茶
- 『どうしても生きてる』朝井リョウ
- 『Think clearly』ロルフ・ドベリ
- 『ワタクシハ』羽田圭介
- 『モモ』ミヒャエル・エンデ
- 『母の記憶に』ケン・リュウ
- 『読書について』ショーペンハウアー
- 『乱読のセレンディピティ』外山滋比古
- 『ゆるくても続く知の整理術』pha
- 『マネーボール』マイケル・ルイス
- 『Rの異常な愛情』R-指定
- 『デス・ストランディング 上』野島一人
- 『デス・ストランディング 下』
- 『カッコいいとは何か』平野啓一郎
- 『UNIXという考え方』マイク・ガンカーズ
- 『オブジェクト指向でなぜ作るのか』平澤章
- 『箱男』安部公房
- 『ヒップホップ・ドリーム』漢 a.k.a GAMI
- 『生き抜くための数学入門』新井紀子
- 『柔らかな頬 上』桐野夏生
- 『柔らかな頬 下』
- 『ゲームの王国 上』小川哲
- 『ゲームの王国 下』
- 『スタートボタンを押してください』ケン・リュウ(編)
- 『ライト、ついてますか?』ジェラルド・ワインバーグ
- 『折りたたみ北京』ケン・リュウ(編)
100冊について振り返り
プログラミング関係の技術書等でもう少し冊数は多いとは思うのですが、紹介してもしゃーない&メモが残っていないので、以上100冊になります。
まずリストアップした率直な感想としては、100冊分のタイトル&著者をタイピングするのは想像以上にダルかった笑。偉大なり、Ordered Listと予測変換。ミス等あってもご容赦ください。
さて、振り返りですが、まずは大雑把にジャンル分けしてみようと思います。その後、感想メモの文量が特に多かったモノを個人的ヒットと見なして、詳しく書いていこうと思います。
カテゴリ総括
- 小説:67冊
- エッセイ:9冊
- 専門書:14冊
- 新書、自己啓発書、その他:10冊
こんな感じでしょうか。正しさを求めるならレーベルで分類するのがいいのでしょうが、そこまで調べ直す気力が起きなかったので、やむを得ずその他枠が発生しました。
見返してみると、やっぱり小説が圧倒的マジョリティですね。特に今年はSFを32冊読んでいたようです(内17冊は天冥の標、恐ろしい)。
そこそこ数を読む中で、個人的には、物語を尋常の世界観から飛躍させて展開することで、逆説的に人間の関係性や精神、社会・技術・自然のあり方について読者に考察させるという要素がSFならではの一番の面白みだなと思いました。現実とかけ離れた世界観を構築するだけならいくらでも可能ですが、著者の科学的洞察によってリアリティを持たせやすい、というのがSFの強みでしょう。
近年SFというジャンルはサイエンス・フィクション以外にもスペキュレイティブ・フィクションという呼ばれ方をするようで、その意味では、Speculative(思弁的)とScientific(科学的)が高いレベルで調和している作品をハマりかけの時期にたくさん読めたからこそ、SFというジャンルの良さに気づけた気がします。
他のカテゴリだと、エッセイ本の面白さに気づけたのも去年の収穫ですね。
「よっぽどの名作でもなければ、作家や学者以外が書いた本を読んでもなぁ…」と昔は思っていたのですが、評判の良いエッセイをいくつか手にとって見るとこれが面白い。考えてみれば、人間が自分のキャリアや生活を文章にまとめているのだから、そりゃ面白いんですよね(もちろん、そもそもの文章力や著者への関心の大きさにも依りますが)。
他人の飾らない考え方や生き様、熱量を読み取る面白みへのアンテナが立ったのは、HIPHOPを好んで聞くようになったのも案外大きな理由かもしれません。HIPHOPは自己紹介の曲が多い、というのはよく目にする分析ですし。
後は、専門書、新書、自己啓発書その他で25%近くを占めている計算です。
このあたりは、その本から何を得られるか、という有益性の大きさが本の良さに直結してくるカテゴリだと思います。具体的に言語化するならば、「行動・思考に変化が及ぼされたか」「関連分野のより発展的な知識を受け入れられるようになったか」などの判断基準でしょうか。
その点を考慮してこのカテゴリを振り返ってみます。今までだと、知識欲や好奇心は満たせても、自分が変化したか?と問われると首を傾げざるを得ないことが少なくなかったのですが、翻って今年は以前よりも本から多くの栄養を摂取できた気がします。
これについては、今まで読んできた本がどうこうというよりも、自分の生活や本の読み方が変わってきたのが大きいかもしれません。
- 純粋に読書量の累積が増えたこと
- 読書とアウトプットが必ずセットになって、記憶に定着しやすかったこと
- ソフトウェアエンジニアとしての生活が短期的に安定して、時間的・精神的余裕が出てきたこと
- 仕事日記を書き続けて、自分の行動や思考をメタに意識する機会が増えたこと
ぱぱっと思い浮かぶ要因はこんな感じでしょうか。学ぶために読むジャンルと位置づけている以上、もしかすると学ぶ体制が整っていることは本のクオリティ以上に大事なのかもしれません。当たり前と言えば当たり前ですが。
個別ピックアップ
ざっくりカテゴリの総括が終わったので、小説、エッセイ、その他から数冊ずつ特に良かった本をピックアップしようと思います。
紹介は例によって読んだ順なので、優劣をつける意図は無いです。
小説
小説部門1冊目は桐野夏生『グロテスク』です。
エリートコースに進んだはずの高校の同級生が娼婦となった末に客に殺された、というなかなかパンチの効いた導入からスタートする本作。
ルックス、性愛、賢さ、反骨心、冷笑など、自分の一要素に過ぎないモノを人格と規定してしまい、それに縋る以外の生き方を知らないまま歳を重ねてしまった人間の、カビ臭い救えなさがとにかく印象的でした。
物語の顛末もとても印象的で、ひたすら俯瞰に努めていた主人公のタガが外れるシーンはおぞましくも爽快です。現代版寓話とでも言えるでしょうか。
とにかく、数百文字でカラッと要約するにはあまりにもドロドロべちゃべちゃした陰湿な物語で、孤独に陥る怖さに震えさせてくれます。友人や家族を大事にしようという気持ちが心の底から湧いてきました。逆説的ハートフル物語、というのは流石に無理がありますが……
2作目は小川一水の『天冥の標』シリーズです。
全10部にして計17冊の一大SF連作長編シリーズ。17/100冊を占めている時点でそりゃそうだろってツッコミが入りそうなくらいには順当な選出ですが笑。
ラフに紹介するならばSF群像劇版ハリー・ポッターって感じですね。かの不朽の名作を持ち出しても十二分に耐えうる素晴らしい大長編でした。
掻き立てられる好奇心と想像力、歴史的・空間的なスケールの大きさ、上位存在への畏敬や恐怖、スリリングな展開、キャラクターの関係性、タイトル回収ポイントなどなど、一冊の単編SFだとどうしてもこぼれ落ちてしまうエンタメSFの良さを余さず飽きさせずてんこ盛りにしたようなシリーズです。
話の本筋はドシリアスですが、サブエピソードの差し込み方が箸休めにちょうどよく、邦作なのも相まって、全巻並べた時の圧の割に断然読みやすかったです。
3冊目は『紙の動物園』です。ケン・リュウによるSF短編集ですね。
とにかく著者の引き出しの多さにビビらされます。読んだ後気になって経歴を調べてみました。以下WIREDより引用です。
中国・甘粛省生まれ。8歳のときに米国に移り、以降カリフォルニア州、コネチカット州で育つ。ハーヴァード大学にて英文学、コンピューターサイエンスを学ぶ。プログラマーを経て、ロースクールにて法律を勉強したのち、弁護士として働く。
付け加えるなら、プログラマとして入社したのはマイクロソフトだそうです。マルチタレントにも程がある。
また、著者は中国系アメリカ人ですが日本文化にも造詣が深く、本書収録の『もののあはれ』は日本人なら一読の価値ありだと思います。
著者の作品は本書が初めてだったのですが、宇宙や死、文字への洞察に何度も唸らされ、自然の神々しさに生で相対するのに近い読後感でした。読む高千穂峡(?)。これを読んだ後、気づいたら日本語で読めるケン・リュウ編著作は全部ポチっていました。
全編通して謙虚さと知性にあふれており、まさに科学的にして思弁的な作品でした。個人的には『もののあはれ』以外だと『紙の動物園』『文字占い師』『愛のアルゴリズム』『円弧』『1ビットのエラー』が好きです。
4冊目は『どうしても生きてる』 。朝井リョウによる短編集です。
本作は、主人公たちの造形の今っぽさやトレンドの咀嚼の上手さからくる説得力が読み応えに繋がっていますが、著者の強みである観察力が相変わらずキレッキレに働いているのだと思います。
内容ですが、「正論に則れない」「自分や他人に後ろめたい」「将来が不安」「本音を吐露できない」「誰にも苦労に気づいてもらえない」「とにかくハズレくじを引かされる」等々、各短編よくもまあここまで取り揃えたなと感嘆するような、バラエティに富んだ生き辛さが織り込まれており、ヨルシカとかamazarashiとか聞きながら読むと相乗効果でだんだん死にたくなるパワフルさでした。特に『流転』は刺さります…。
しかし最終編『籤』まで通して読むと、「人間を活かすのは、燃えるような情熱でも冷めきった惰性でもなく、瞬間瞬間の気力やたくましさ、しぶとさなのだ」というようなメッセージが読み取れて感慨深かったです。励ましにしては皮肉が強いですが笑。
ラスト5冊目はミヒャエル・エンデの『モモ』です。
少女モモが、灰色の男たちによって人々から盗まれた時間を取り戻すために奮闘するというあらすじの児童文学で、小学校の図書室で読んだことがある人も多いようです。
知人から勧められて読んだのですが、子供向けに書かれたとは思えないほど含蓄深い作品です。死ぬほど陳腐な表現ですが「むしろ大人こそ読むべき本」というやつで、現代社会に生きる人間にとっての時間とはどういうものかを強く訴えかけてきます。日本のサラリーマン全員が本書で語られるような考え方を持つことができれば、10倍くらい社会は豊かになるのではないでしょうか。
後に紹介する『Think clearly』と併せて、労働者の一人として資本主義を相対化する感性を養ってくれた一冊です。
エッセイ
続いてエッセイ部門1冊目は『ナナメの夕暮れ』。
オードリー若林のエッセイで、『社会人大学人見知り学部 卒業見込み』の続編のような位置づけです。充分単体で読めますが、前作を読んだ上で本作を読むとより楽しめます(キューバ本がどういう位置づけなのかはちょっと分かりません)。
そこまで数を読んできたわけではありませんが、若林のエッセイは他のものに比べても突出して内省的だと思います。省みる対象も、素朴な日常の出来事と言うよりは、それら出来事に対するマジョリティの人々と自分の間の感性のズレを俯瞰するようなものが多いです。
しかし前作と比べると、そのズレに向き合う姿勢がかなりポジティブになっている印象を受けます。著者は、40歳になってまで斜に構えていられない、という旨の発言をたまにメディアでしていますが、ひねくれを克服するまさにその過程が描かれているのが本作なのでしょう。
自他共が認めるひねくれ者の自分としても共感する部分がとても多く、楽しく読み終われました。
2冊目はラッパー般若の自伝『何者でもない』です。
本作については、少なくとも『フリースタイルダンジョン』程度には日本語ラップを知っていないとハマらないかもしれませんが、逆に言えばその程度の知識か関心があれば楽しめる本だと思います。
自分は『ダンジョン』で日本語ラップを知ったのですが、「なんでこの人がラスボスやってんの?」という素朴な疑問へのアンサー足り得る自伝です。「生き様でラップしてる」と称されるだけあって本書の熱量はかなりのもので、惹き込まれました。
また、これは本書の内容からは離れるのですが、「自分がどの媒体から一番感じ取れるか」というのを考えてみた時に、やっぱりそれは文章なんだなぁという気づきがありました。内容との直接の関係はありませんが、ラッパーの自伝を読むという結構特殊な体験を経たからこその観点だったと思います。読み物としてのクオリティも高いですが、そういった新鮮さも込で選出しました。
3冊目は前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』。
昆虫学者である著者が、サバクトビバッタの防除技術開発の手がかりを見つけるためにアフリカで奮闘するエッセイです。
「 アフリカに単身遠征するバッタ研究者」という数奇さで売れた本なのかなぁと思いつつ読んでみましたが、自分の中でノンフィクション史上一番と言えるくらい面白かったです。
著者の説明力は流石専門家といった感じで、バッタ問題の現状や解決した際のインパクトが臨場感を伴って伝わりました。加えて、経験をエモーショナルに書き上げる文章力も抜群で、実績を挙げて常勤ポストを勝ち取ろうともがく著者の姿は素直に応援したくなります。
また、全編の文章を通して、著者の中で科学者として当たり前になっているのであろう仮説検証の考え方が現れているのを感じられて、これが研究者の思考回路かと新鮮な気持ちで読み進められました。
4冊目はブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとだけブルー』。
著者がハーフの息子とのイギリス生活を通して、多様性、他者へのエンパシー(共感)のあり方を考察するエッセイです。
この本を選出した理由は他と毛色が違って、「読んだ後に反論したいことがたくさん湧いてきた」というものなのですが、自分の良しとする多様性について考える機会として印象強かったという意味ではオススメの一冊です。
本書の大筋は「マイノリティに対するエンパシー」を重んじよう、"他人の靴を履いて"みようという素朴な主張だと思うのですが、それを伝えようとする著者の視野が無垢すぎて頷けないところが大きかったです。
「寛容のパラドクス」なんて言葉も聞いたことがありますが、不寛容な人々に対する著者の無自覚な不寛容性が文体から感じられてしまいます。異物を排除する社会の中で"快適に育ってきてしまった"人たちに多様性を尊ぶことを求めるのは無理な話ではないでしょうか?
そういう不愉快な現状を受け入れた上で試行錯誤しながら、個人レベルで自省と実践を繰り返していくことでしか、人々が真に寛容さを発揮する社会は作れないのではないかと自分は思いました。
もちろん、(自分を含めて)人間が自らの価値観を100%俯瞰するのは原理的に不可能であり、その前提のもと可能な限り嫌味っぽくならないように配慮を巡らせているのは読み取れましたし、純粋にイギリスで暮らす一家のノンフィクションとしては楽しんで読めました。
その他
その他部門と称するとスゴく雑な感じが出ますが、1冊目は矢沢久雄『プログラムはなぜ動くのか』です。
OS、メモリ、CPU、バイナリなど、ITに携わらずとも一度は聞いたことのあるであろうコンピュータの基礎についてとてもわかり易く書かれています。基本情報技術者試験に臨むにあたって、参考書の前に本書を読んでいたのはかなり合格に寄与したなという体感がありました。
ソフトウェアの仕組みに興味があって、知識を学んでみたい、というような人におすすめできる本だと思います。
2冊目は『世界で最も強力な9のアルゴリズム』です。英ディッキンソン大学のコンピュータ・サイエンスの教授ジョン・マコーミックが門外漢向けに現代のITの基盤となっているアルゴリズムを紹介します。
アルゴリズムといっても、データ構造とアルゴリズムの講義で学ぶようなものではなく、Google検索や暗号化、圧縮など、日常で使われるITサービスに直結したものがメインなので比較的馴染み深いと思います。
本書でとにかく凄いのが、全くの素人でも分かるようにほとんど専門用語を使わずに解説をやりきっている点です。「こんなのどうやって達成するんだよ?」という問題を鮮やかに解決するアイデアを、丁寧に順を追って説明してくれるので、まさに腑に落ちる感覚が味わえます。
3冊目は飲茶『14歳からの哲学入門』。
その名の通り、砕けた文体で哲学者たちの主張を解説する入門書です。表紙の意図は謎ですが、今まで読んできた哲学入門書の中では一番わかり易い&面白かったです。
本書は哲学史をなぞっていくような構成になっているのですが、各哲学者の主張が、どのような点で前代の通説へのアンチテーゼとなっていたのか、というポイントを特に注力して書かれているので、思想の流行り廃りの流れがよく分かります。
また、各学者の各論の面でも、テンプレ的に主張を解説するのではなく、「一見トンデモっぽい部分がその学者の主旨に対してどのような意義を持っているのか」等までカバーしてくれる、痒いところに手が届くような構成になっていて好感が持てます。
個人的には、流行と超克という本書の構成に則ってポストモダンの哲学に著者が切り込む終章の伏線回収感がアツくて好きです。
4冊目はロルフ・ドベリ『Think clearly』。
まあ陳腐なジャンルだとは思いますが、これが読んでみると意外と新鮮で面白かったです。「良い人生が何かはわからないが、良くない人生の要素に逆張りすることはできる」という著者のスタンスや、全体的に地に足がついていて省エネ志向な雰囲気は、押し付けがましくなくてオリジナリティが有ったと思います。
自分が日常の中で言語化せずとも考えていたことの一部がTips集としてまとまっていた感覚でした。
個人的には、立ち読みの重要性を再認させてくれたという意味でも印象に残っています。アレな本かなと疑いながらも暇つぶしに斜め読みしてみると、意外と良いことが書いてあって、見た目や売り方だけで判断するもんでもねーなと思わされました。
5冊目はpha『ゆるくても続く知の整理術』です。
著者の経験則から抽出したラクして勉強するためのガイド本で、いかに勉強を習慣化するかという方法論を紹介しています。
タイトル通りのゆるい雰囲気で紹介される方法論は、徹底的なやる気への諦観とロジカルさに裏打ちされており説得力があります。そのギャップを感じるだけでも面白みがあるかもしれません。
本書と『Think clearly』は特に、上述のような心持ちの変化が有ったからこそ楽しめた本だったと思います。平穏な向上心とでも言いましょうか、期待しすぎず冷笑しすぎずのバランスを保ち、使えそうな知恵は取り入れるという姿勢がキープできるようになったのは我ながら感慨深いですね。
個別ピックアップラスト、その他部門6冊目はジェラルド・ワインバーグ『ライト、ついてますか?』で、問題発見の人間学という副題の通り、問題解決という営みそのものについて論じた本です。
ロジカルシンキング等具体的な方法論について語っているというよりは、問題解決に当たる際の心構えを説いた本ですね。
「問題とは理想と現実認識の差異である」という言葉の定義に基づいて、問題のあらゆる側面(現状認識、理想定義、原因、関係者、解く必要性等)をメタに考えることから良い問題解決が生まれるのだ、ということを著者は伝えようとしています。
問題解決は本質的にメタ思考が要求される、という立場からの主張は、書籍として新鮮かつ自分の考え方に近く、興味深く読めました。
終わりに
最後に、この100冊チャレンジをやってみた感想そのものについて書いて、過去最長の本記事を締めくくろうと思います。
このチャレンジ、「読んだ冊数マウンティングは巷でよく見るけれど、ぜーんぶ記録に残してきたような奴っているのか?いねぇだろ??」というよくわからない仮想敵への反骨心から始めたのですが、終わってみればとてもやってよかったです。
まず、様々な本に対して、率直な感想、面白かった/つまらなかった点とその理由、読後の考え等を言語化するのを1年間継続したことで、自己理解、文章の要点を読解する力&それを要約する文章力がそこそこ深まった気がします。
今後の課題?も見つかりまして、好みのタイプの文章や主張の輪郭は鮮明になった分、自戒やアンチテーゼになってくれるような本があまり読めていないというのも16冊の後半7冊を選出する中で強く感じました。もちろんエンタメとしての読書ならそれで良いのでしょうが、一応目的意識を持って読む本もある以上気にかけたいところです。これは多分この記事を書かないと気づけないポイントでしたね。
あとは副作用的に、本の読み方が効率的になりました。本は通読しないと気持ちが悪くて読んだと言えないタチだったのですが、サラリーマンやりながら100冊という数を稼ぐためには、つまらない本は斜め読みして途中で閉じる勇気が必要でした笑。『読んでいない本について堂々と語る方法』という本をブログで紹介したことがありましたが、そこで述べているような態度を修行を通じて体得したような感覚です。
また、この振り返りまで含めてやりきったことで、自分が読んできた本が全て一覧化されたのも楽しかったですね。日記代わりのライフログのような感じで、自分の足跡が外部に積み重なっていくのはシンプルに気持ちよかったです。
ただまあ、冊数を目標として本を読むのはもうやらないつもりです笑。というのも、単純に重たい本に挑戦する気持ちが萎えるからです。今回のチャレンジで計算すると1冊/3~4日のペースで本を読み続ける必要がありますが、その中ではハードカバーの専門書は必然的に後回しになりました笑。毎回言ってる気もしますが、骨太な作品への挑戦を増やしていきたいですね。
さて、振り返ってみるとかなり多くの発見がありましたが、とりあえず2020年は、記録は継続しつつも気張らない読書を楽しみたいと思います。
ここまで読んでくださりありがとうございました。友人知人それ以外の方も、よかったら反応くれると嬉しいです笑。