学生読書日誌

ハッピーヘブンのふきだまり

主に読書感想文をかきます

月村了衛『機龍警察 完全版』を読みました

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いきなりですが、皆さんには「自分はこう生きていくのだ」という強烈な行動原理、軸、生きる意味だというようなモノはありますか?

それは夢でも、職業意識でも、宗教でも、人間関係でも、正義感でもプライドでも全く構いません。病気や障害であったとしても、それが生きようとする原動力に結びついているのであればそれはそれで良いでしょう。

自分で自分の生き方を定めるという行いは、方向性と力強さを伴っている限り全て尊いものだと思います。たとえそれがどんなに後ろ向きなモノであったとしても。自死や虚無ではなく生に結びつくのであれば。


さて、のっけから何を青臭いことをほざいてやがるとの罵倒はごもっともです。ただの大学生が何言ってんだコイツと、ぼくの自意識も尖った針でつついてきます。

ただ、こんなクサいことを書き起こしてみたくなる程度には『機龍警察』という作品シリーズのキャラクター像にはインパクトがありました。

今のところ『火宅』以外の単行本まで読んだのですが、今回はシリーズ第1作について感想を書きたいと思います。


本作は、SF警察群像劇『機龍警察』シリーズ第1作となります。

舞台は犯罪のグローバル化が急拡大した"至近未来"世界。市街地テロの増加、局所的紛争の激化により、軍事・警察の観点から大量破壊兵器に代わる兵器開発の要請が高まり、世界では「機甲兵装」という装備が主流となりました。(小規模で現代的武装のモビルスーツのようなイメージ)

日本の警視庁は、新型機甲兵装「龍騎兵(ドラグーン)」を切り札とする特捜部を新設、龍騎兵の乗り手として3人の傭兵と契約し、各地で起こる重大事件と立ち向かうこととなるのでした。


この作品の魅力をあげるならば、

・パワフルで魅力的なキャラクター

・非常に緻密でリアリティ溢れる世界観

・テクニカルな脚本構成

以上の3点だと思います。


順に追っていきます。


キャラクターについてですが、まず第一に皆強固な行動原理を抱えています。その力強さたるや、読み終えた後記事冒頭のようなことを思わず考えさせられてしまうほど。

創作人物なんだから当たり前だろと喝破されてしまいそうですが、皆「キャラが立ってる」と一言で片付けてしまうには惜しい造形なのです。

特にドラグーンのパイロット3人の傭兵刑事たちは、それぞれ職業傭兵のプライド、警官の矜持、元テロリストとしての自罰を胸中に抱いています。各々の思いの形成のきっかけや克服の過程、それらが任務とぶつかる際の葛藤など、いずれも一筋縄ではいきません。

読むほどに彼らの過去が特捜部での任務を通して掘り下げられていき、内面がどう変わるのか、あるいは変わらないのか、文字を追う目を強く惹きつけます。


次に世界観、設定の部分ですが、"至近未来"と題しているだけあって、武装が機甲兵装でなければ、それはそのまま世界のどこかで起きているのではないかと思わせる現実味があります。さながらフィクションとリアルの"相似"です。

巻末の参考文献を見ても、作者が舞台を構築するためにどれだけの考証を重ねているのかが伺えるでしょう。

そして、国際犯罪の潮流に立ち向かう組織として日本警察を選ぶことで、作中描かれる暴力、犯罪の脅威は、もはや対岸の火事のままではありえないのだとするメッセージ性も感じます。

ただこの点では、作中再三警察の閉塞感について言及されるのですが、少々脚色が過ぎるのでは?と思ってしまうことがありました。もちろんぼくに実態は分からないし、物語の面白さを損なうほどのものでは無いのですが。


最後にストーリーについて。

警察小説であり、基本的にはずっと犯人グループと特捜部の対立構造で話が進むのですが、要所要所の組み立て方に妙を感じます。

主要キャラクターの抱えた因縁が、テロ事件を追っていくうちに運命の悪戯のように立ち塞がってくるのです。

本巻においては、ドラグーンパイロットの1人、姿俊之の過去に焦点が当たります。次巻『自爆条項』ではライザ・ラードナー、次々巻『暗黒市場』ではユーリ・オズノフ(いずれもドラグーンパイロット)において同じ構成が見られます。

過去と未来の"相似"とでも言えるでしょうか、この相似構造の魅せ方がまた上手。

この構成が非常にアツく、かつわざとらしくないんですよね。シリーズを通じて似た手法であるのに、全く違う人物像を見事に書き上げており飽きさせません。

またストーリー構造に関していえば、伏線の張り方とその回収が見事です。朝井リョウ伊坂幸太郎を想起する、ぼくの大好きなシナリオのパターンです(笑)

余談ですが、作者は元々アニメ等の脚本を手掛けていたそうで、その経歴を見て『機龍警察』での筆力に強く頷けました。



以上3点がぼくの推しポイントですかね。

指のおもむくまま入力してみたところ、第1作について書くといいながらシリーズ通しての感想になり、第1作特有のところには言及がヌルくなった気がします。そこはネタバレ回避ということにしてご容赦下さい(笑)



確か、新刊『狼眼殺手』が7月だか9月だかに単行本化されるそうです。ぜひこの機会にシリーズに手を出してみてはいかがでしょうか。

それでは。