学生読書日誌

ハッピーヘブンのふきだまり

主に読書感想文をかきます

中村文則『教団X』を読みました

「誰に何と言われようとも、私は全ての多様性を愛する」(本文より)

 

今回は、芥川賞作家中村文則の『教団X』についての感想です。

(可能な限り)短めに締めようと思います。

 

この本は、著者が「現在の自分の全て」と語るほどの力作で、ぼく自身本屋で見たときの背表紙の存在感に圧倒されました。その辺の辞書くらいの厚みはあるんじゃなかろうか。

我が家の本棚はすでに飽和状態でしたが、ぼくは文庫版刊行まで待てないタチでして、葛藤の末Kindle版をiPhoneにDL購入して読みました。

近所のファミレスで数時間スマホに向き合い続ける大学生の様は尋常ならざる雰囲気だったと思います(笑)

 

この物語は、対照的な2つの新興宗教を軸に、それに関わる多数の人物の思惑がうごめく群像劇です。

話は、不可思議な出会いの果てに失踪を遂げた彼女を探そうとする男のシーンから始まります。それを追って男は2つの教団を巡る事件に翻弄されることになります。

あらすじはこんな感じです。

 

ぼくの感想は、結論から言うと、面白いけど期待し過ぎた、といったところでしょうか。

 

先に予防線を張っておくと、基本的にぼくは辛口批評とかそう言う類の文章が嫌いです(笑)

どの立場でぬかしとんじゃハゲって気持ちになりますし、一人の人間が"全力を尽くした結果"それが全くカケラも響かないという現象は、基本的には受け取る側の問題だと思っています。(小説に限らず他の全てのフィクションや、スポーツ、教育現場、仕事、面接(笑)等においても)

 

よって、今回はスタンスとしては批判的に書くことになりますが、全く、決して、そういう上から目線を気取る目的はありません。

どちらかというと、自分にとって本作がこれまでの著者の作品ほど響かなかったポイントを分析することで、裏から見て自分の感性を分析したいというニュアンスです。

ということで、従来作よりインパクトが(ぼくにとって)弱かった理由を考えてみると、以下3点でしょうか。

1."総集編の劇場版"感

2.言いたいことの根っこの分かりにくさ

3.キャラの多さによる、各々の書き込みの物足りなさ

1に関して、これはぼくのスタンスなんですが、アニメの1クール総集編映画とかってあるじゃないですか。

すでに原作を通しで見たことがある場合、あの類の映画を見る気が起きないんですよね。 どっちかというと完全続編を作って欲しい派です。

『教団X』について、それと似た読後感を覚えてしまいました。

中村文則作品に顕著な、人間性に対する深い洞察、化け物じみた悪の存在に感じてしまう畏敬、陰鬱でありながら読者の手を止めさせない筆力等々の特徴は健在です。

しかし、過去作品に比べて、何かしらの突き抜けた『教団X』特有の面白さが薄いかなあと思いました。

「性」への言及がそれなのかなとも思いますが、本筋への絡みや描写の必要性は薄い気がします。(書き忘れましたが、結構R18描写多いです)

 

2について、ぼくはこの作品の根っこのテーマは「あらゆる人生の肯定」だと受け取りました。

ファシズム反対」だと言う人もいるかもしれません。というのも、作中右傾化していく日本へかなり批判的な描写がなされるからです。

本の解釈は読者の自由ですしそれに間違いはないでしょう。 ただ、ぼく個人としては、それらのテーマは絞られていた方が分かりやすくて良いと思います。その方がより鋭く深い言及ができるでしょうし。

実際各々のテーマで見ると、前者については著者過去作品の方が、後者についてはジョージ・オーウェルの『1984年』や伊坂幸太郎の『魔王』の方がなどと、自分の中で他の本の影が見え隠れしてしまいました。 (こういう読み方は良く無いとは思いますが)

 

3についてはそのまんまですかね。

本作は著者の作品の例に漏れず、悪や闇を抱えた一筋縄ではいかない人物たちが多く登場します。というか全員そうです。

従来作では少ない人物にフォーカスする分、内面描写を徹底することで心の黒い部分の深みを増していたと思うのですが、本作は群像劇ゆえかどうしても深堀が足りずに、人間性がチープに思えてしまうキャラがいたように感じました。

メチャクチャ悪い表現をすると、twitterによくいるメンヘラレベルの説得力のキャラも少なくなかったかなと。

 

というところでまとめると、ぼくは中村文則作品には、より狭く深い領域に対する言及を求めているのでしょう。 そういう意味で、エッジの利き方が従来作品に対して物足りなく思ってしまったのだと思います。

どちらかというと、元々のファンよりも新しくこの作者に興味を持った人の方がハマりやすいのではないでしょうか。

中村文則作品をよく知らない人がぼくのこの長文を読むかどうかは甚だ疑問ですが(笑)、ご一読いただいて意見をくれたりしたら面白いなと思います。